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SF少女マンガ全史

Thu Jul 25 2024

「SF少女マンガ全史」長山靖生 筑摩選書 2024

「SF少女マンガ全史」長山靖生 筑摩選書 2024

SF少女マンガの通史であるが、サブタイトルに「昭和黄金期を中心に」とあるように主に1970年台から80年台にかけて活躍した作家が中心の構成となっている。
2024年に「SF少女マンガ全史」と題して出す本であるからには、米沢嘉博の「戦後少女マンガ史」「戦後SFマンガ史」の2冊には書かれていない80年台から現在に繋がる流れを期待したいところだが、 90年台以降の作家については第1章の「SF少女マンガ概史」で清水玲子やよしながふみなど幾人かがざっくりと紹介する程度で、2章以降の個々の作家や作品の論評ではほぼ言及がない。それに対して、大島弓子や岡田史子、内田善美、高野文子といったSFマンガというとちょっと疑問符が付く作家に紙幅をかなり割いており、「全史」というぐらいならもっと取り上げるべき作家はいるだろうにと思わざるをえない。何せ高河ゆんやCLAMPすら全く出てこない。80年台以降の「リュウ」あたりから始まって「ウィングス」や「ZERO-SUM」などに続くSF・ファンタジー作品の流れはほぼ無かったことにされており、今現在、マンガを読んでいる若い層からすれば「おっさんのノスタルジー」以外のなにものでもないだろう。(老害という気はないが、マンガ評論とか書く人、ガロ・COM系と(いわゆる)24年組あたりで価値観が止まってる人多い気がする)

とはいえ、古き良きSF少女マンガのガイドブックとしては悪くない。とくに第4章まるごと使った萩尾望都評は萩尾望都の本を出している著者だけあって読み応えがある。ただ、竹宮惠子への記述がけっこう悪意を感じるのは著者が萩尾望都推しの所為か。

人名と作品名の索引がないのもマイナスポイントかな。


目次

はじめに - SF少女マンガ黄金期伝説

第1章 SF少女マンガ概史ー分かりやすさと独自な表現のはざまで

1.マンガ表現はどうやって生まれたか
2.少女マンガの揺盤期
3.少女にSFは分からない?
4.SFブームと少女マンガ
5.女性SFは何を描くのか

第2章 挑発する女性状理知結晶体

1.山岸涼子 抑圧と理知の先にあるもの
2.倉多江美 - シュールで乾いた宇宙
3.佐藤史生 科学と神秘の背反する魅力
4.水衛和住 王道SFロマンを求めて
5.「見えない壁」と「見える壁」を超えて

第3章 思考するファンタジー

1.少女マンガSFの詩人・山田ミネコ
2.大島弓子 - 少女の心象はハラハラと舞い散る
3.共同制作と見せ場主義のエンタメSF・竹宮恵子
4.少女感覚とSFファンタジー

第4章 時を超える普遍を見つめて - 萩尾望都の世界

1.SFは自由への目醒めをもたらす
2.萩尾SFの絵画論的・音楽論的宇宙観
3.多様な異世界生命体と性別の揺らぎ
4.危機から目を逸らさず、希望を捨てず

第5章 孤高不滅のマイナーポエットたち

1.岡田史子 - その花がどこから来たのか私たちはまだ知らない
2.内田善美 - 圧倒的画力が創り出すファンタジー世界
3.高野文子 - 絶対危険神業

あとがき


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