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遊郭建築にみる都市伝説

奈良県大和郡山市に現存する大正13年築の元娼家である川本楼において流布されている幾つかの都市伝説を検証したブックレット。
著者の山川均氏は考古学者で大和郡山市で文化財の調査研究に携わった経歴の人。

取り上げられている都市伝説は三つで、一つは外壁に設けられた♥型の窓について「ハートではなく猪目文様である」という説、二つ目は「窓に付けられた鉄格子は娼妓が逃げられないように設置された」という説、三つ目は「廊下に設けられた欄干に障子紙が貼られておらず筒抜けになっているのは不埒な行為に及んだ客に対して娼妓が上げた悲鳴が聞こえやすくするため」という説。いずれも著者が川本楼のスタッフやガイドなどが喧伝しているのを実際に耳目したもので、これらの言説が根拠のない都市伝説というか単なるデマに過ぎないということを検証している。

一つ目の猪目文様に関しては歴史認識の甘い知ったかぶりの言説が広まったものだろうが、二つ目と三つ目に関しては娼家とはそういうものであろうというステレオタイプなイメージによる思い込みによるものだろうか。著者の意図は誤解を正すことにあるのと、川本楼という一つのケースだけを取り扱っているので「遊郭建築にみる都市伝説」にまで一般化できるものではないだろうけど、似たような都市伝説の類いは他の遊郭建築にあってもおかしくはないだろうなとは思わせる。