Note:
戦前のダダイスト辻潤の評伝。
辻潤というと、チェーザレ・ロンブローゾやマックス・シュティルナーの翻訳は主だった仕事だが、ロンブローゾの主立った学説は現在では否定されているし、マックス・シュティルナーも殆ど忘れ去られた存在となった。ダダイストとして知られた辻潤だったが(その奔放な生活そのものがダダであったといはいえるかもしれないが)、仕事として何かを残した訳でもない。今、辻潤の名が人口に膾炙するのは、大杉栄とともに殺された伊藤野枝の夫だったという事実ぐらいか。
あらためて評伝を読んでみても、残念な人としか感想が出てこない。まともに働かず、酒癖も女癖(なかには強姦としかいえなような行為もあったらしい)も悪い。借金などの知人・友人への不義理お多く、貧困と放浪の日々、晩年は(詐病との疑惑もあるが)発狂し、戦時中は配給通帳も持たず、あげくに最期は世話になった知人宅で餓死である。
客観的事実だけを並べれば決して良い人とはいえないが、それでも多くの人々が彼を慕い、師と仰いでいたのだから、それ異常の愛嬌のある人物だったんだろう。それでも今の世に生きていけるとは思えず、大正から昭和初期のあの時代だからこそ生きられた人なんだろう。
