以前、松崎貴之さんのX で “オキンタマ” なる語についてツイートされているのを読んだ。
大正時代の新聞で「オキンタマ」という言葉に出会った。記事では「自分のみよければよしとオキンタマをなす」「オキンタマメンの本性を遺憾無く発揮」と使われていた。ハワイで発行された日系紙だったので、英語を発音通りに書いたのだろうと思ったら山口県の方言だという(オキンタマでググると出てきた論文による)。意味は「お世辞を言う人」「おべっかを使う人」。ハワイ移民には山口や広島の出身者が多く、方言も輸出されていったらしい。 山口出身の友人に「オキンタマ」のことを尋ねてみたところ、知らないながら「オキンタマなんだから、ブラブラくっついてきて腰ぎんちゃくみたいにお世辞を言うってことなんでしょ?」とのこと。なるほど! ※ 複数のツイートにまたがっていたのをまとめています。
出典:松崎貴之さんのX
で、それからちょっとこの「オキンタマ」という言葉が頭の隅っこに引っかかっていたのだろう、今になってふと思い出してしまったのでNDLで検索してみたところ「オキンタマメン」という語について解説している本を見つけた。松崎貴之さんがハワイの日系紙で見つけたと書かれていたが、「オキンタマ」/「オキンタマメン」というのはハワイの日系人の間で使われていた言葉で間違いないみたい。
その本は「移民百年の年輪 : 椰風蕉雨」川添樫風著 移民百年の年輪刊行会 1968年(NDL)という移民百年を記念して刊行されたハワイの日系移民 についての本で、ハワイ独特の生活日本語の一つとして「オキンタマメン」が解説されている。
ところで、オキンタマメンとはこれ如何? オキンタマは日本語で、メンは英語、矢張り布哇で使用された特殊の日本語である。
一九〇九年(明治四十二年)五月八日を以て始まったオアフ島砂糖耕地日本人労働者の第一次ストライキの時、耕 主側に味方してストライキに反対したり、邪魔をしたりした者に対して被せられたのが、このオキンタマメンで、後 日、罷工幹部に対する罷工煽動事件裁判が始まった時、法廷でも、このオキンタマメンの英訳が問題になった。 …これを文字に表すると、オキンタマはお金玉と書く、お金玉はお睾丸である、これは日本における力士社会の通用語である。
関取が風呂に入る時、弟子がその身体を洗うことになっている。
その際、殊更に親方の歓心を買うために、睾丸までも洗う者がいる。
他の弟子達がそれを嘲って、又誰それが、お金玉をやっていると言ったもので、それが彼等の間の通り言葉になっていた。
そこで、この言葉は他人の歓心を求めるという意味であり、お上手者と同意義である。
多分、ハワイに来た移民中に、力士生活をした者があり、労働者の中で、特に耕主に対してお上手をし、その機嫌 をとっている者のあるのを見て、そのオキンタマの下にハワイ流にメンをつけたのがその語源らしい。
このオキンタマメンは前にも書いたように、その英訳が公判廷で問題になり、その都度、厳粛たる可き法廷にゲラゲラと時ならぬ哄笑が起った。
法廷ではわざわざ日本から、日本語英訳の権威デニング教授を招聘した。
この教授はその時既に三十五年間も日本に滞在し、森有礼氏の文相時代、文部省におり、後仙台の第二高等中学校 に教鞭をとった日本通であったが、デニング教授自身も亦、このオキンタマメンの英訳にははたと行詰った。
勿論、和英辞典にはなく、日本でも一度だって聞いたことがないと云った。
時の日本総領事上野専一氏は『なんでもこれは広島のどこかで使っている下等社会の言葉で、追従、又はおべっか の意味だ』と語った。
出典:「移民百年の年輪 : 椰風蕉雨」川添樫風著 移民百年の年輪刊行会 1968年
この本によると、「オキンタマ」とはもともと角界用語であったものがハワイ移民の間に広まったものらしい。まぁ、「諸説有ります」という奴かもしれないけど。
裁判でこの言葉の翻訳について一悶着あったという件は面白い。結局、何と英訳されたんだろうか?