稲垣足穂に「WC」という小説がある。
内容はタイトルの「WC」のとおり便所にまつわる話で、足穂の作品の中でもお気に入りの一篇なのだが、その中で村山槐多の詩について言及している箇所がある。
村山カイタの詩に、小さい女の子を呼んで△△△の画をかいてみせたら、バカねと云って女の子はぶちに手をあげながら、ふだんより一そうあでやかに笑ったといいうのがあったようですが、私は同じ種類の感動をそのとき打たれたのです。
「WC」稲垣足穂 より
ここで言及されている村山槐多の詩はおそらく「わが命」と題された詩のことだと思われる。
該当の箇所を抜き出してみると
愛らしい少女に□□□を描いてみせたら
少女の顔はさらに愛らしく輝いた
色情はすべての美の元か。
「わが命」村山槐多 より
こんな感じで、足穂の些か少女マンガチックというかラブコメチックな描写とはちょっと印象の異なるややエロ劇画を思わせるような表現となっている。
気になるのは伏せ字の箇所だけど、ここは村山槐多の本でも出版時に検閲で伏せ字にされている。
幸いなことに参照した彌生書房の「村山槐多全集」には註釈として伏せ字にされた箇所についての記述があって、それによると伏せ字の部分はまあ予想通りだけど「ちんぽ」とのこと。
現在だと完全に通報案件だけど、部分的に抜き出したからで全編を読めばまた印象が変わる。
ちなみに、この詩は槐多の死の前年である大正7年、4月に結核性の肺炎で死の淵を彷徨った後、小康状態を取り戻した後に書かれたものだ。
Links
NDL : 「鼻眼鏡 : 他六篇」稲垣足穂 新潮社 大正14
NDL : 「村山槐多全集」弥生書房 1963