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無意味なものと不気味なもの

Mon Jul 08 2024

「無意味なものと不気味なもの」春日武彦 中公文庫 2024

「「無意味なものと不気味なもの」 春日武彦 中公文庫 2024

精神科医、春日武彦による「恐怖の一歩手前」「グロテスクの未然形」とでも言うべき不安や違和感に満ちた感覚をもたらす文学作品を題材にしたブックガイドとも文学評論ともエッセイともつかない読み物。 文庫化にあたりボーナストラックとして描き下ろしで一章が追加されている。

取り上げられている作品の中で明確にホラーといえるのはラブクラフトの「ランドルフ・カーターの陳述」ぐらい。しかも内容は結構な diss。

多くは純文学系のしかも割とマイナーな短編が多く、百閒の「殺生」とラブクラフト以外はいずれも未読どころかタイトルすら知らない作品。しかし、どれも怖いというより不気味というか厭な感じの小説で面白そうではある。特に河野多恵子の死んだ妻と性交する夫を描いた「半所有者」、富岡多恵子の田舎に暮らす五十代の寡婦が不気味で粗野な唖の男に性交を求められる「遠い空」など読んでみたい。

巻末には紹介された作品を収録した比較的入手しやすい書籍をまとめてくれているのは親切で良い。

取り上げられた作品

「牧師の黒のベール」ナサニエル・ホーソーン
「半所有者」河野多恵子
「長靴の物語」パトリック・マグラア
「仁摩」古井由吉
「ランドルフ・カーターの陳述」H・P・ラブクラフト
「旅は道づれ」日影丈吉
「人魚とビスケット」J・M・スコット
「風景小説」藤枝静男
「目かくし運転」レイ・ブラッドベリ
「夜の音」高井有一
「消えた娘」クレイ・レイノルズ
「遠い空」富岡多恵子
「黄金の眼に映るもの」カースン・マッカラーズ
「忌中」車谷長吉
「殺生」内田百閒
「父の最後の逃亡」ブルーノ・シュルツ
「黒い牧師」庄野潤三


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