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ブルーフィルムの哲学

Tue Jul 30 2024

「ブルーフィルムの哲学」吉川孝 NHKブックス 2023

「ブルーフィルムの哲学」吉川孝 NHKブックス 2023

現在ではほとんど忘れ去られた存在となった「ブルーフィルム」と呼ばれた16mmないし8mmフィルムで撮影された無修正のポルノ映画について、当時斯界ではもっとも知られた存在であった制作販売グループ「土佐のクロサワ」とその作品を中心に哲学の手法を用いて読み解いていく本。

高知の大学に勤務することになり移住することになった著者がその地で入手した「土佐のクロサワ」の代表作の一つである「柚子っ子」を出発点に、今ではほとんど失われてしまった「ブルーフィルム」を膨大な周辺テキストを元に様々な角度から浮かび上がらせていく過程は文句なく面白い。個人的には「(ブルーフィルムには)多様な欲望が可視化されているのであるが、それはあくまでも一つのパースペクティブ、女性を求める男性の欲望を介したものである。こうした状況を(中略)『欲望の横領』と特徴づけてみたい」云々のくだりが興味深かった。

また、「ブルーフィルム」というモノに対して哲学的に読み解いていくその過程、方法とその意図や目的を平易で判りやすい文章で一つ一つ丁寧に説明していくスタイルは、現代哲学の方法論、手法の解説でもあり「現代哲学の入門書」のようでもある。何事も雑にしか考えられない身からすると、その緻密さには脱帽するしかない。

読んでいて目に付くのはことある毎に出てくるフェミニズムやポリティカル・コレクトネスに対する配慮や予防線で、「ブルーフィルム」のような性的なコンテンツを扱う場合、今じゃここまでせねばあかんのかと昭和の人間としては「面倒クサっ」と思ってしまうが、ちゃんとするということはキチンと手間暇かけて手順を踏み他の意見も尊重することなのだなぁという当たり前を再認識した。


目次

はじめに「禁じられた映画」を見る山田五十鈴

序章 経験を通じて思考すること」-「土佐のクロサワ」と現象学
第一章 ブルーフィルムとは何かと問いながら

1.『ブルーフィルム風俗小型映画』全三巻と『久米の仙人』
2.「本物」のブルーフィルムとは何か
3.「ブルーフィルム」をめぐって
4.文化を継承する

第二章 ブルーフィルムを見るとはどのようなことか

1.見ることの困難
2.幻の名作『風立ちぬ』
3.証言から何を知りうるのか
4.セックスの映像を見る

第三章 ブルーフィルムは何ゆえに美しいのか

1.芸術ゆえの美しさ
2.ポルノゆえの美しさ
3.見てはならないゆえの美しさ
4.秘密ゆえの美しさ

第四章 ブルーフィルムを前にして何をすべきか

1.ポルノグラフィをめぐる議論から
2.実演する出演者たち
3.ポルノグラフィと自己理解
4.個性と民主主義

第五章 ブルーフィルムはどのような(不)自由をもたらすのか

1.社会変革とポルノグラフィ
2.法の外の自由
3.偏りのなかで欲望を描く
4.『風立ちぬ』の光景

第六章 ブルーフィルムとともに生きるとはどのようなことか

1.ブルーフィルム界のクロサワ
2.高知のクロサワ
3.クロサワたち
4.匿名のままに

終章 現れるに値するもの

参考文献
おわりに


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