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ネット怪談の民俗学

Wed Nov 20 2024

「ネット怪談の民俗学」廣田龍平 ハヤカワ新書 2024

「ネット怪談の民俗学」廣田龍平 ハヤカワ新書 2024

1990年代から2020年代の現在にかけてのインターネット上に流布する怪談=ネット怪談を民俗学的な立場から俯瞰的に総括した本。

民俗学に限った話ではないけれど、「怪談」を扱う場合、基本的に日本ローカルであったり、語りにしろ文書にしろ言葉に記されたもの偏重(精々取り上げられても漫画や映画ぐらい)という印象であったが、本書ではクリーピーパスタをはじめとした英語圏におけるネット怪談の現状や、「The Backrooms」やInstagramやTikTokで流布されているような奇妙で不気味な画像や動画といった伝統的な「怪談」とは異なる共有される「恐怖」イメージや、フィクションに出自を持ちながらネット上に拡散される過程でフィクションとそうでないものとの境界があやふやになってしまっているようなものまで取り上げられている話題は幅広く、出典を辿りにくいネットの情報にも関わらず調査は丁寧。現時点で「ネット怪談」を知る上でもっとも適した本であることは間違いない。

一つ気になったのはインターネット上の事象を民俗学が扱う場合の「語り手」の存在についてで、この本はとても良く調べてあるけれどあくまでそれはネット上に現れた情報の履歴や伝播についてであって、その情報をネットに上げた人物についてはほとんど触れられることがない。まぁ、匿名掲示板への投稿者など実際には特定不能だから仕方がないのだろうけど、従来の民俗学における「民話」や「伝承」の採集においてそれを誰が語ったのか、語り手の存在は大きい。しかし、従来の民俗学が相手にしてきたローカルな社会ではない、インターネットのような広大で不特定多数の匿名の誰かによって構成される世界において語られる話、作られる文化における「語り手」の存在とはどのような意味を持つのだろうか?


目次

まえがき

第1章 ネット怪談と民俗学

 共同構築としてのネット怪談──きさらぎ駅
 民俗学とはどのような学問か
 画像から生まれる── スレンダーマン
 アメリカ民俗学の「伝説」概念
 ネット怪談はネタなのか──「怪談」と「ホラー」
 平成令和怪談略史

第2章 共同構築の過程を追う

 二〇〇〇年代初頭までの状況
 心霊スポットから怪村へ
 2ちゃんねる── 多種多様な怪談の展開
 ネット怪談と田舎と民俗学
 台湾の「赤い封筒」と因習系の衰退?

第3章 異世界に行く方法

 異界と異世界
 異世界を考察する
 異世界に行ってみる
 現実感のありか

第4章 ネット怪談の生態系──掲示板文化の変遷と再媒介化

 怪談サイトの生態系
 インターネットを、日本を越える
 ネット怪談の特徴を逆手に取る──記録は消えても記憶は残る
 話者としてのインターネット老人会

第5章 目で見る恐怖──画像怪談と動画配信

 超常的イメージのメディア
 クリックベイト
 逆行的オステンション
 怖いことをするのを見る──心霊スポットと実況配信

第6章 アナログとAI──二〇二〇年代のネット怪談

 古い映像、記憶に残る映像
 バックルームの始まり
 バックルームの展開
 恐怖に物語はいらない?

あとがき

参考文献
怪談索引


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