それはほんとうによかった。それからね、入院してからあたしと娘でオチンチンを拭いてあげたの。武田は中学生時代からオチンチンをよく洗ったことはないと言ってました。それで毎日毎日、おしっこのたびに蒸タオルで拭いてあげて、どんどん綺麗になったのよ。こう、きゅっと首をちぢかめたようになっちゃって・•••・可愛らしかった。おしっこさせながら、あたしが「オチンチンのうた」ってのを作詞作曲してうたったら、笑ってね。でもその次に「おしっこ音頭」ってのを作ったら、これはあんまり喜ばなかった。変な顔してたわ
出典：「武田百合子対談集」武田百合子著 中公文庫 2024
武田百合子の対談集より、深沢七郎との対談で語った武田百合子による病床の夫、泰淳の話。
この時、武田泰淳は64歳。その姿を想像するとおかしいやら悲しいやら。
対談は1976年の雑誌「文藝」に掲載されたもので、夫である武田泰淳が同じ年の10月5日に亡くなって程なくして行われたもの。
入院時、泰淳自身には秘密にされていたが、妻である武田百合子には泰淳が末期癌であることは知らされていた。
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