豊前の藩主小笠原に三百石で召抱へられた茶坊主古市家は宗旦から茶道の秘傅をうけ別に古市流といふ一派をたてたが、此流儀では野立箱と言って野外で茶を たてる準備を常に整へてゐたので自然野糞の作法も案出し、是が特別に六箇敷ものとせられてゐたとは此道に通じた老人から曾て耳にしたことがある。此咄に由ると其法は紙を袋形に折り懐手して 是を尻に運び此中に用足するので遣りにくひと一般に心得られてゐたが、實はそうでなく、脱糞して其上に紙を被せ此紙の眞中を一寸捻り上げて、さながら袋に物を入れて捨てた姿にするのが秘傳で在つたとの事である。 野糞も是まで體裁つくらうと、しゆ味津々である。
「習俗雑記」宮武省三著 坂本書店 1927
宮武省三という南方熊楠とも交流があった在野の民俗学研究者が書いた「習俗雑記」という本の中に、野糞の作法についての記述があった。
北九州の小倉に受け継がれている茶道古市古流の作法だそうで、野点で野外に出るため必然的に屋外で用を足すこともあることから生まれた秘伝とのことだが、 糞の上に紙をしいて拾い上げるというのは秘伝というほどのものではないような・・・・・・
この古市流の野糞の作法については、ほかにトイレ関係では著名な李家正文の「厠(加波夜)考」や、沖縄研究で知られる金城朝永の「異態習俗考」などでも言及されているが、内容的には ほぼ同じで同じ元ネタを参照しているのだろうがいずれも出典の記載がない・・・・・・
余談だが、引用箇所の末尾の「しゆ味津々である」とは「趣味津々」だと思うが、「興味津々」と同義なんだろうか?
Links
NDL : 『習俗雑記』宮武省三著 坂本書店 昭和2
NDL : 『厠(加波夜)考』李家正文著 六文館,昭和7
NDL : 『異態習俗考』金城朝永著 六文館 昭和8
古市古流 – (ふるいちこりゅう)