だから、私はその法の不備に対する抗議の手段として、決して自発的には、納税しない決心をした。私は、税務署の役員が来たとき、所得は決定額より以上あるが、所得税法が不服だから収めない。どうぞ、勝手に差押へをしてくれと云つた。私は、差押へだとすると屹度執達吏が来るのかと思つてゐたが、案に相違して、洋服を着たその若い役員は、「ぢや差押へして行きます」と、云つた。
「差押へられる話」 菊池寛 より
菊池寛の随筆からの一節。初出は不明。昭和4年から5年にかけて刊行された平凡社版の菊池寛全集には収録されているから書かれたのはそれ以前。 というか、この全集には初出の記載がないけどこの時分の全集だとそれが普通なのか? 昭和13年に出た中央公論社版の菊池寛全集にも記載がない。
とりあえず、税金に不服で鼻息の荒い菊池寛に対して、若い役人のクールさが良い。
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青空文庫 図書カード : 差押へられる話
NDL : 『菊池寛全集 第12巻』平凡社 昭和4-5