「ウェブ小説30年史 日本の文芸の『半分』」飯田一史 星海社新書 2022
1990年台、日本におけるWEB小説(WEBを媒体として発表された小説)の黎明期から本書が出版された2022年時点まで、「WEB小説の書籍化」という観点から眺めた通史。
Internet上の情報はすぐに消えてしまうので、数年前のことすら良く判らなくなることがあるのでこのような記録は重要。実際、この書籍にしても冒頭で述べられているように「WEB小説の書籍化」という観点から書かれた理由としてそれが比較的調査・検証のしやすさにあって、個人サイト全盛期の頃に書かれた有象無象の作品などは今となってはその全体像など調べようがない。現在、判る範囲のことだけでも記録にまとめて残しておくことの意義は大きい。
ただ、「WEB小説の書籍化」の歴史であるため、本書のメインは必然的に出版界におけるInternetへの取り組みの歴史、WEB小説のマネタイズの歴史となっており、作家や小説を主題にしたWEB小説の文学史を期待するとちょっとガッカリするかもしれない。
WEBマンガの方は、スマートフォン上のアプリの台頭でかなり状況は変わってきている印象があるが、今後は小説もアプリで読むというのが当たり前になってゆくのだろうか?
目次
第1章 1990年代ウェブ小説の書籍化 - 分岐・集団創作・マルチメディアの夢
第2章 2000年代前半のウェブ小説書籍化 - 自費出版・掲示板文化・ガラケーサイト
第3章 2000年代後半 - 第二次ケータイ小説ブーム
第4章 2000年代後半 - アルファポリス、エブリスタ、小説家になろう
保章 2000年代までの隣国のウェブ小説動向
第5章 2010年 - 初の異世界転生書籍化と「ウェブから書籍へ」の流行の波及
第6章 2011年 - 「新人賞からウェブ投稿へ」という投稿先変化の萌芽
第7章 2012年 - なろう系文庫レーベルと複数のテキスト系サービスの出現
第8章 2013年(1)- MFブックス、ピリギャル、櫻子を当てたKADOKAWA
第9章 2013年(2)- 多様化する女性向けウェブ小説と出版社系サイト/電子小説誌の苦戦
第10章 2014-2015年 - なろう系がラノベになり、ライト文芸にウェブ発が合流する
第11章 2016-2018年(1)- なろうダイジェスト版禁止、成年向けと児童への広がり
第12章 2016-2018年(2)- SFと純文学におけるウェブ小説書籍化の明暗
第13章 2019-2022年 - 日本式の「ウェブ小説籍化」は終わらない
おわりに