古典にあらわれた接着

国立国会図書館デジタルサービスで見つけた、高分子刊行会が刊行している接着材の専門雑誌「接着」に1974年から77年、その後、1982年から続編として連載されている古典の文献に表れる接着に関しての言及を取り上げたエッセイ。

例えば、連載第3回の清少納言の「枕草子」を取り上げた回では、

（141段）とり所なきもの，かたちにくさげに，心あしき人。みそひめのぬりたる。これいみじう、よろづの人のにくむなる物とて、いまとどむべきにあらず。
（略）
141段の「みそひめ」は姫糊（昔は米のごはんのことを姫といった一字津保物音などにみられる）のことで、糊を塗ったものが「心あしき人」と同じく，にくむべきものとされている。しかも「とどむべきにあらず」だから、必品のために、いくらにくんでも致し方ないというわけである。姫糊を塗ったものがどうして悪いのか、塗って接着しないまま放置されていて乾いてしまい，どうにも仕様がなくなったのか，姫糊をべたべたつけた着物なのか、いづれも「とり所なきもの」の代表に糊が出てくるのは興味がある。

と「みそひめ（姫糊）」という所謂「糊」がを指す語が使用されていることを紹介している。

当初は表題通り日本の古典作品を中心に扱っていたが、「続」になってからはネタがつきたのか近代以降の文献、さらには内外のミステリや、キングやクーンツといったモダンホラーまでその対象を広げていて、キングを取り扱った回では

「呪われた町」（1975）には次のような文がある。「机の一端には糊の壺が、反対側のはしにはそれぞれの面に家族の写真を飾った四角いガラス製の文鎮がのっていた」「カール・フォアマン（葬式屋）が遺体の目を閉じてやるのを何度も見た経験があった。もちろんゴムで接着するのさ、といつかカールが説明してくれた」遺体の目を閉じるゴムというのはゴム糊なのか、アラビヤゴムのような水性だろうか。最近は米国では瞬間接着剤を使うこともあると聞いている。

といった感じで、ほとんど本筋とは関係ない情景や状況を描写する些細な語まで広い上げる精緻さに驚く。さらにいえば、これほどニッチなテーマにも関わらず20年以上、250回以上も描き続けているのは驚異だ。

著者の本山卓彦さんは1923年東京生まれ、京都高等工芸学校人造繊維科を卒業後、京都大学化学研究所、昭和高分子取締役、昭和電工顧問などを務めた人で「おもしろい接着剤のはなし」日刊工業新聞社 1989や、「接着おもしろテクノロジー」日刊工業新聞社 1996などの著書があるようだが詳細は良く判らない。

古典にあらわれた接着

「接着」1974年02月号〜1977年12月号全47回

NDL : 1974年02月号第1回神々の誕生
NDL : 1974年03月号第2回神々の誕生(2)
NDL : 1974年04月号第3回宮廷の文化(1)
NDL : 1974年05月号第4回宮廷の文化(2)
NDL : 1974年06月号第5回宮廷の文化(3)
NDL : 1974年07月号第6回説話
NDL : 1974年08月号第7回軍記,御伽草子,仮名草子(1)
NDL : 1974年09月号第8回軍記,御伽草子,仮名草子(2)
NDL : 1974年10月号第9回町人の世界(1)
NDL : 1974年11月号第10回町人の世界(2)
NDL : 1974年12月号第11回町人の世界(3)
NDL : 1975年01月号第12回町人の世界(4)
NDL : 1975年02月号第13回町人の世界(5)
NDL : 1975年03月号第14回町の世界(6)
NDL : 1975年04月号第15回随筆,風俗(1)
NDL : 1975年05月号第16回随筆,風俗(2)
NDL : 1975年06月号第17回随筆,風俗(3)
NDL : 1975年07月号第18回俳諧の流れ(1)
NDL : 1975年08月号第19回第俳諧の流れ(2)
NDL : 1975年09月号第20回俳諧の流れ(3)
NDL : 1975年10月号第21回明治の辞典
NDL : 1975年11月号第22回繁盛記
NDL : 1975年12月号第23回漱石と鷗外
NDL : 1976年01月号第24回俳諧師
NDL : 1976年02月号第25回風俗画報
NDL : 1976年03月号第26回西洋膝栗毛
NDL : 1976年04月号第27回清盛と膠
NDL : 1976年05月号第28回吉井勇と焼継
NDL : 1976年06月号第29回雨瀟瀟
NDL : 1976年07月号第30回明治接着
NDL : 1976年08月号第31回式部小路
NDL : 1976年09月号第32回袖屏風
NDL : 1976年10月号第33回書生気質
NDL : 1976年11月号第34回明治技術(1)
NDL : 1976年12月号第35回明治技術(2)
NDL : 1977年01月号第36回比喩
NDL : 1977年02月号第37回日記
NDL : 1977年03月号第38回逍遥シェークスピア
NDL : 1977年04月号第39回チェンバー百科辞典
NDL : 1977年05月号第40回 19世紀接着
NDL : 1977年06月号第41回キット
NDL : 1977年07月号第42回ミラーと公房
NDL : 1977年08月号第43回英米文学より
NDL : 1977年09月号第44回昭和20年まで
NDL : 1977年10月号第45回江戸時代拾遺
NDL : 1977年11月号第46回拾遺
NDL : 1977年12月号第47回まとめ

続･古典にあらわれた接着

「接着」1982年01月号〜（NDLで20204年08月15日現在公開されている2000年12月号時点で連載中）

以下は、「古典にあわられた接着」と「続・古典にあわられた接着」の間に連載していたエッセイ。

新聞広告にみる接着剤の変遷

「接着」1978年01月号〜1979年05月号全16回

NDL : 1978年01月号第1回
NDL : 1978年02月号第2回明治大正の糊
NDL : 1978年03月号第3回事務用糊
NDL : 1978年04月号第4回昭和初年の接着
NDL : 1978年05月号第5回洗濯糊
NDL : 1978年06月号第6回代用品時代
NDL : 1978年07月号第7回接着剤原料
NDL : 1978年08月号第8回ゴム系接着剤I
NDL : 1978年09月号第9回ゴム系接着剤II
NDL : 1978年10月号第10回エポキシ接着剤
NDL : 1978年11月号第11回ビニル樹脂接着剤,瞬間接着剤
NDL : 1978年12月号第12回熱硬化性接着剤の展開
NDL : 1979年02月号第13回天然物接着材
NDL : 1979年03月号第14回エマルジョン接着材
NDL : 1979年04月号第15回家庭用接着剤
NDL : 1979年05月号第16回総合広告

新聞広告にみる接着剤の変遷

「接着」1979年06月号〜1981年12月号全31回

NDL : 1979年06月号第1回
NDL : 1979年07月号第2回物価と生産
NDL : 1979年08月号第3回価格統制
NDL : 1979年09月号第4回證紙を貼る
NDL : 1979年10月号第5回戦後の合板
NDL : 1979年11月号第6回合板の試験法と規格
NDL : 1979年12月号第7回風船爆弾その後
NDL : 1980年01月号第8回 CIE図書館開く
NDL : 1980年02月号第9回モダンプラスチックス
NDL : 1980年03月号第10回酢酸ビニルの生産
NDL : 1980年04月号第11回未利用貴源の開発
NDL : 1980年05月号第12回酢酸ビニル樹脂
NDL : 1980年06月号第13回内職
NDL : 1980年07月号第14回酢ビエマルジョンの研究
NDL : 1980年08月号第15回酢ビエマルジョンの生産
NDL : 1980年09月号第16回繊維の接着
NDL : 1980年10月号第17回特許
NDL : 1980年11月号第18回合板用接着剤あれこれ
NDL : 1980年12月号第19回日合聯速報
NDL : 1981年01月号第20回家庭用接着剤
NDL : 1981年02月号第21回面白い特許
NDL : 1981年03月号第22回溶剤
NDL : 1981年04月号第23回木材接着剤レビュー
NDL : 1981年05月号第24回木材接着剤レビュー(つづき)
NDL : 1981年06月号第25回化工デンプン
NDL : 1981年07月号第26回ゴムの接着研究
NDL : 1981年08月号第27回接着剤の解説
NDL : 1981年09月号第28回住宅と接着
NDL : 1981年10月号第29回接着の研究
NDL : 1981年11月号第30回文芸にあらわれた接着
NDL : 1981年12月号第31回まとめ