「中国文化大革命ポスターを読む」大里浩秋:編 東京大学出版会 2024
1960年代末、文化大革命下の中国で盛んに作られたプロパガンダポスターを分類解説し、そこから文化大革命とは何だったのかを読み解こうとする本。
中国文学者であった新島淳良が残したポスター二百数十枚が神奈川大学非文字資料研究センターに寄贈され、それを機に開催された展示とカンファレンスが行われ、書籍化に繋がったもよう。
内容的には前半1章と2章が文革ポスターに関する解説で図版も多く読みでがあるが、第3章以降は文革ポスターとはあまり関係ない内容が多くなる。そもそも、執筆者も田島奈都子さんを除けば、残りの方は中国の専門家ではあるが、美術史やデザイン、広告、プロパガンダを専門にしている人がおらず、美術史や文革当時の中国のプロパガンダ制作についての深い内容は期待しない方が良い。
第3章に掲載されている「文化大革命の宣伝に威力を発揮した記録映画」は当時の記録映画「毛主席和百万文化革命大軍在一起」の日本語字幕みたいなものだし、「1967年の北京――1年間の見聞滞在記」は当時、難聴の治療で中国に招待された筆者の思い出話以上のものではない(とはいえ、急遽毛沢東本人と会えることになった筆者が、毛沢東に声をかけられて舞い上がってしまい、思わず口に出たのが「毛沢東万歳」だったという話は面白かった)。何で掲載されているのか理解に苦しむ。
第5章のシンポジウム報告についても、部外者からみるともの凄いローカルな閉じた世界の話に終始している印象しかうけない。
目次
はじめに(大里浩秋)
第1章 文革ポスターについて(成田紅音)
1 文革期の様々なプロパガンダと『毛主席語録』
2 「文革ポスター」の特徴と作者たちについて
3 人々は「文革ポスター」をどのように利用したか
第2章 ポスター紹介
新島氏収集のポスターについて(大里浩秋)
1 毛沢東の教えで思想統一を図る(孫 安石)
2 毛沢東の教えに従い文革に決起する(大里浩秋)
3 林彪が台頭、修正主義・劉少奇批判起こる(大里浩秋)
4 経済建設・祖国防衛を訴える(菊池敏夫)
5 毛沢東の肖像画、言葉、詞(詩)(成田紅音)
6 各国反帝闘争支持を表明する(大里浩秋)
第3章 論考・滞在記
1 文革ポスターのデザイン的源泉に関する一考察(田島奈都子)
2 文化大革命の宣伝に威力を発揮した記録映画(長井暁)
3 1967年の北京――1年間の見聞滞在記(平井博二)
第4章 コラム
1 映画「活きる」にみる「文革ポスター」(成田紅音)
2 日本の高校教科書は文化大革命をどう解説しているか(菊池敏夫)
3 津久井弘光さん作成の新聞切り抜きを見て思うこと(大里浩秋)
4 『毛主席安源へ行く』と『人間の正道は是滄桑』――制作経緯と作者たちのその後(成田紅音)
第5章 シンポジウム報告
1 文革に対する当初の反応――中国研究所を例にして(大里浩秋)
2 半世紀を経て文化大革命とは何だったのか――その歴史を再考する(加々美光行)
3 新島氏から学んだ毛沢東思想(矢吹晋)
4 世界革命としての文化大革命――要因・衝撃・悲劇の国際的連鎖(馬場公彦)
コメント(菊池敏夫)
*新島淳良・加々美光行対談
あとがき(孫 安石)
資料
参考文献
編著者・執筆者紹介
Amazon : 「中国文化大革命ポスターを読む」大里浩秋:編 東京大学出版会 2024
Cultural Revolution Campaigns (1966-1976) Chineseposters.net